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ルーツ貿易創業50周年企画 インポーターの視点からふりかえる洋菓子50年 第3回 後編

2026/10/09 福岡「フランス菓子 16区」三嶋隆夫シェフ

菓子職人の仕事の真髄とは


フランス菓子 16区・三嶋隆夫シェフ

日本の洋菓子界の成熟と共に、華やかな生ケーキがメインを張る一方で、焼き菓子が店の売上を支えるようになりました。12月にシュトーレン、1月にはガレット・デ・ロワと、歳時記を彩る商品でも焼き菓子が存在感を発揮するように。そのきっかけを作った一軒が「16区」と言えるかもしれません。


三嶋隆夫(みしま・たかお)プロフィール
1944年生まれ。大学卒業後、帝国ホテルで菓子職人としての礎を築く。76~80年、スイスのルツェルン、南仏ニース、パリで修業。パリ16区「アクトゥール」では日本人初のシェフを務めた。80年帰国、81年「フランス菓子16区」をオープン。07年「現代の名工」に選ばれる。15年「黄綬褒章」受賞。



時間がおいしくしてくれる

白根:シュトーレンも16区を代表するお菓子のひとつですね。

三嶋:ルーツさんが持ってきたミックスフルーツサラダがきっかけでした。

白根:アグリモンタナ社のキャンディードフルーツ、いわゆるフリュイコンフィ。5種類のフルーツ(オレンジビール、スカッシュ、レモンピール、チェリー、セドラ)のシロップ漬けですが、シロップの糖度を30度からスタートして、1週間〜10日ごとに順次上げていって、最終的に70度のシロップに漬けるという伝統製法で作られています。手間と時間のかかる昔ながらの製法です。保存料やリキュールを使わずとも寿命の長い、風味の凝縮したフルーツができ上がる。糖の浸透による透明感のある見た目が美しく、食感にも優れています。

三嶋:初めて食べた瞬間に「あ、これで何かできるぞ」と思ったんですね。職人って、そういうもので、「そうだ、これでシュトーレンを作ってみよう」と。型を発注して、最初の年で200本くらい、焼きました。これがまた売れ残ったんですよ。で、売れ残りをバックヤードに置いて忘れていた。半年くらい経って引っ張り出して食べてみたら、素材同士が馴染んで味わいが熟成されるのか、よりおいしくなっているじゃないですか。

白根:フルーツの味わいも深みを増すでしょうね。

三嶋:そこから生まれたのが、「ヴィンテージ シュトーレン」です。

白根:こちらでは、スタンダードタイプとヴィンテージタイプ、2種類を作っていらっしゃる。

三嶋:ヴィンテージタイプは、糸島の廃線のトンネルで熟成させた年もありました。現在はワイン貯蔵庫で熟成させています。近年はヴィンテージを1000本、スタンダードを1400〜1500本、用意しています。

白根:元はと言えばドイツ菓子のシュトーレンですが、ムッシュが作るようになってから、フランス菓子店でも商品化されるケースが増えましたね。


働き方改革の効果あり!?

三嶋:ヴィンテージは1、2月に焼いてワインセラーに預けて熟成させ、スタンダードは10月頃から焼き始めます。11〜12月の洋菓子店は、通常の商品に加えてお歳暮需要とクリスマスケーキの準備で、どれだけ働いても間に合わないほど仕事に追われる。でも、シュトーレンは予め仕込んでおける。しかも「アドベント=クリスマスを待つお菓子」だから、購入時期が集中しない。とりわけヴィンテージタイプは熟成に価値があるので、何カ月も前に焼いておくことに意味がある。おかげでうちでは、12月23日も夜の8時にはスタッフが帰宅できているんですよ。

白根:働き方改革にも効果的なんですね。

三嶋:生のクリスマスケーキの予約は、積極的に売り込まないようにとスタッフに言っています。お客様から「予約したい」と言われた時だけ受けなさい、と(笑)。


職人の仕事を大切にしたい

白根:フランスから帰国して創業45年。日本の洋菓子界の変遷をどうご覧になっていますか?

三嶋:技術が向上し、素材の質が上がって、良い方向に向かっていると思いますね。僕自身は、純粋なフランス菓子を作っているというより、自分の菓子を作ってきた意識が強い。フランスで修業したから、「フランス菓子」と店名に冠していますが。僕らの世代からしたら神様のようなクロード・ボンテさん(60年代にフォションのシェフを務めたMOF。70〜80年代、現代フランス菓子大講習会の講師として日本各地で技術指導を行なった)が店に来られた時、「自分が若い時に働いた店の仕事場と同じ空気が流れている」と、予定を変更してうちの厨房で過ごすという出来事がありました。あの時は本当にうれしかった……。

白根:日本の洋菓子の世界が、本場に負けない広がりと奥行きを持つようになったのは、ムッシュの世代の功績だと思います。16区ではガレット・デ・ロワに始まって、アップルパイ、ブルーベリーパイ、マロンパイと、1年を通して季節のパイを大切に作っていますね。

三嶋:パイシートを仕入れる店も増えているようですが、うちは必ず店で折っています。こういった仕事に菓子職人の仕事の真髄が表れると僕は考える。絶対に譲れないところです。
フランス菓子 16区・三嶋隆夫シェフ


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