ルーツ貿易創業50周年企画 インポーターの視点からふりかえる洋菓子50年 第4回 前編
2026/10/16
兵庫・甲陽園「ケーキハウス・ツマガリ」津曲 孝シェフ

白根:アフロンティ社の伝統品種パルマ・ギルジェンティですね。
津曲:口の中で広がる風味が僕の脳を強烈に突き刺したんです。子供の頃に食べた野生の梅の種の香り、青梅の香りがよみがえって、当時の記憶と共鳴した。瞬時に「このアーモンドを使いたい」という感情が湧き起こりました。
白根:現地に視察に行かれるほど惚れ込んでくださって。アフロンティ社のアーモンドを愛用されるパティシエはたくさんいますが、シチリアまで足を運んだのは津曲シェフだけです。
津曲:シチリアのアーモンド畑を見て、この味わいがどこから来るのか、妙に納得したのを覚えています。石がむき出しになった、荒涼とした石山のような畑で……。日本人の感覚からはほど遠い景色だった。
白根:夏の強烈な日射しと乾燥した空気、水はけの良い石灰岩質の土壌がナッツに濃厚な味と香りを与えるんですね。しかも自然の雨水だけで育てている。
津曲:シチリアのアーモンドはビターな風味が特徴的で、「クセがある」と言う人もいます。あまり日本人向きじゃないかもしれない。
白根:伝統品種のパルマ・ギルジェンティは、ビターアーモンドの若木にスイートアーモンドを接木して栽培するので、実にかすかな苦味が表れてくるんです。それがお菓子に深みをもたらす。
津曲:僕はこれが本来のアーモンドの風味と信じて頑固に使い続けてきました。今ではその味わいがうちのお菓子の個性になったと思いますね。
白根:近年はシチリアでも早く収穫できる新品種が主流ですが、アフロンティ社はパルマ・ギルジェンティにこだわっています。
津曲:アルフォンソさんだったかな、収穫の取りまとめ役の人がまた良かった。どの農家がどんなふうに栽培しているのか、実り具合はどうかを彼が把握していて、収穫と選別が的確になされる。彼の目が正直で駆け引きがないことにも感銘を受けました。人が見ていないところでこそ本気でやらなきゃだめだということを実践されている。一生付き合いたいと思わされる人物でした。
津曲:ピューレやジャムは自家製し、シュークリームやケーキにふる粉糖も店で挽いています。
白根:店にローラーを持ち、アーモンドパウダー、アーモンドペースト、プラリネなど、ナッツの加工も自店で手掛けている。
津曲:素材と徹底的に向き合っていると、生かし方が見えてくるんです。たとえば、アフロンティ社のピスタチオ。これは飾りなんかに使っちゃもったいない。ピスタチオとして世界一の風味を持っているのですから。僕は丸ごと食べさせたくて、皮ごと生地に埋め込んだクッキーを焼いています。お客さん自身がズバッと齧って、ピスタチオの味を実感してほしい。そして、ヘーゼルナッツは生のまま皮ごとマジパンにしています。生で香ばしい風味があるんです。
白根:僕たちが僕たちなりに良いと判断した品質の素材を、より深く掘り下げてお使いになられて、たいそう勉強になります。
津曲:素材には人格があると、僕は思っているんですよ。この素材は何を言いたいんだろう。どのように加工したら、素材が言いたいことは伝わるんだろう。いつもそれを考えてお菓子を作ります。僕はマジパンの作り方を知らずに、誰からも教わらないで、ああじゃないか、こうじゃないかと独自に作り上げたのですが、ドイツに行って、間違っていなかったことがわかりました。素材が導いてくれたんでしょうね。

素材には人格がある

欧州での菓子作りを経験した職人が増えるにつれ、本場と同じクオリティの素材が求められるようになった90年代。
素材の探求にエネルギーを注ぐパティシエが増えるなかで、とりわけ素材使いに卓越した感性を発揮したのが、「ケーキハウス・ツマガリ」の津曲孝シェフです。
素材と向き合うその姿勢をルーツ貿易 白根康博会長との対談でお届けします。
津曲 孝(つまがり・たかし)プロフィール
1950年宮崎県生まれ。67年上京し、渋谷「ヒサモト洋菓子店」で修業。72年、エーデルワイスに入社。77年、会社から派遣されて、スイス・チューリッヒ「シュプリングリ」で研修。80年からはグループ会社のアンテノール代表取締役社長を務める。87年独立開業。11年「現代の名工」、15年黄綬褒章を受章。
シチリア産アーモンドに魅せられて
津曲:ルーツ貿易が扱う素材では、なんといってもシチリア産アーモンドに衝撃を受けました。白根:アフロンティ社の伝統品種パルマ・ギルジェンティですね。
津曲:口の中で広がる風味が僕の脳を強烈に突き刺したんです。子供の頃に食べた野生の梅の種の香り、青梅の香りがよみがえって、当時の記憶と共鳴した。瞬時に「このアーモンドを使いたい」という感情が湧き起こりました。
白根:現地に視察に行かれるほど惚れ込んでくださって。アフロンティ社のアーモンドを愛用されるパティシエはたくさんいますが、シチリアまで足を運んだのは津曲シェフだけです。
津曲:シチリアのアーモンド畑を見て、この味わいがどこから来るのか、妙に納得したのを覚えています。石がむき出しになった、荒涼とした石山のような畑で……。日本人の感覚からはほど遠い景色だった。
白根:夏の強烈な日射しと乾燥した空気、水はけの良い石灰岩質の土壌がナッツに濃厚な味と香りを与えるんですね。しかも自然の雨水だけで育てている。
津曲:シチリアのアーモンドはビターな風味が特徴的で、「クセがある」と言う人もいます。あまり日本人向きじゃないかもしれない。
白根:伝統品種のパルマ・ギルジェンティは、ビターアーモンドの若木にスイートアーモンドを接木して栽培するので、実にかすかな苦味が表れてくるんです。それがお菓子に深みをもたらす。
津曲:僕はこれが本来のアーモンドの風味と信じて頑固に使い続けてきました。今ではその味わいがうちのお菓子の個性になったと思いますね。
白根:近年はシチリアでも早く収穫できる新品種が主流ですが、アフロンティ社はパルマ・ギルジェンティにこだわっています。
津曲:アルフォンソさんだったかな、収穫の取りまとめ役の人がまた良かった。どの農家がどんなふうに栽培しているのか、実り具合はどうかを彼が把握していて、収穫と選別が的確になされる。彼の目が正直で駆け引きがないことにも感銘を受けました。人が見ていないところでこそ本気でやらなきゃだめだということを実践されている。一生付き合いたいと思わされる人物でした。
素材の声に耳を傾ける
白根:津曲シェフは、素材を見極める厳しい眼を持つと同時に、副素材をできる限りご自身でお作りになっていますね。津曲:ピューレやジャムは自家製し、シュークリームやケーキにふる粉糖も店で挽いています。
白根:店にローラーを持ち、アーモンドパウダー、アーモンドペースト、プラリネなど、ナッツの加工も自店で手掛けている。
津曲:素材と徹底的に向き合っていると、生かし方が見えてくるんです。たとえば、アフロンティ社のピスタチオ。これは飾りなんかに使っちゃもったいない。ピスタチオとして世界一の風味を持っているのですから。僕は丸ごと食べさせたくて、皮ごと生地に埋め込んだクッキーを焼いています。お客さん自身がズバッと齧って、ピスタチオの味を実感してほしい。そして、ヘーゼルナッツは生のまま皮ごとマジパンにしています。生で香ばしい風味があるんです。
白根:僕たちが僕たちなりに良いと判断した品質の素材を、より深く掘り下げてお使いになられて、たいそう勉強になります。
津曲:素材には人格があると、僕は思っているんですよ。この素材は何を言いたいんだろう。どのように加工したら、素材が言いたいことは伝わるんだろう。いつもそれを考えてお菓子を作ります。僕はマジパンの作り方を知らずに、誰からも教わらないで、ああじゃないか、こうじゃないかと独自に作り上げたのですが、ドイツに行って、間違っていなかったことがわかりました。素材が導いてくれたんでしょうね。
素材の究極の味を見つけた時、職人の腕も上がる
津曲:我々職人は、技術を磨いたら腕が上がる、というものではないと思っています。素材の究極の味を見つけた時に、腕前は向上するんです。テクニックだけでどうにかできるものではない。素材に生かされ、素材に導かれて、お菓子の技術も上がっていくんだと思います。
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インポーターの視点からふりかえる洋菓子50年 第4回 「ケーキハウス・ツマガリ」津曲 孝シェフ 前編(PDF)